やっとのことでハンモックの格好をつけ、キャスト・スタッフを引き連れて、川へと向かった。雑木に囲まれた土の坂道を下りてゆくと、太い毛虫に足を止めた柳さんが、思わずその場にしゃがみ込み、剛さんと一緒にスマホで写真に収めている。毛虫は大人の親指ほどの太さがあり、ヨモギ色の身体に白くて細い毛が何千本も生えていて、きれいだった。
無事みんなで川に浸かり、ロケ場所を交渉させてもらった近所の豆腐屋のおばさんにも挨拶を済ませると、子供を連れた近所の若いお父さんが近づいてきた。「撮影ですか。へえ。マムシに気を付けてくださいね」。曰く、撮影場所の隣がマムシの巣で、見れば小さな祠も建っており、さっきはそんなこと一言も言わなかった豆腐屋のおばさんも、一度マムシに噛まれたことがあるという。私は意を決しマムシの巣に踏み込むと、小さな祠に手を合わせた。
(つづく)
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