少しずつ陽が傾いて、夕景を狙う撮影時間が近づく。最初に決めたカメラ位置がどうにもしっくりこないので、思い切ってロングショットを提案すると、カメラを据え直した風太くんも「ここだ」みたいな顔をした。弥栄さんがマイクを据え直す間、用意したもろもろの小道具を持たせたり、取っ払ったり、あれこれ衣裳を思案したりしながら、ハンモックに寝そべる柳さんの傍をウロウロした。
この映画の柳さんは寝ているだけだ。もちろんそのことは本人にも伝えていたし、それを面白がってくれたところから、私はこの映画を実現に向けて動かし始めた。でも、私はその時点ですべてが伝わり、演出は済んでいると思い込んでしまったように思う。
2回ほど予定された動きがあり、そのタイミングを知らせる合図を確認すると、もう私には彼女に伝えるべき言葉がなかった。全体の動きのイメージはあったけれど、その先の手探りの部分を言葉のやりとりでなんとかすることでは、この映画は掴めないような気もしていた。
いや、これは、撮影が終わったから言えることだ。とにかくあのとき、私は柳さんにどうすればいいのか、なにをしてはいけないのかを伝えなかったし、伝えることができなかった。柳さんも腑に落ちない顔をしていたが、とにかく、まずはやってみるしかなかった。
(つづく)
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